首都圏を中心に拡大する「マルチテナント型物流施設」構想とは?
ワザモノ編集部
近年、郊外に大型の物流施設の建設が相次いでいます。こうした施設は地域の雇用を吸収する役割を果たしていますが、最近では行政も一緒に物流施設を街づくりの拠点の一つに考えて、「物流タウン」としての街づくりを進めている地域もあります。
物流タウンに不可欠な大型物流施設が、「マルチテナント型物流施設」です。今回は、マルチテナント型物流施設とは何か、そしてその事例について紹介します。
「マルチテナント型物流施設」とは
マルチテナント物流構想では、物流施設1棟を複数の物流業者が共有します。このため、一つのフロアが広く、さまざまなレイアウトで使用することができるのです。スペースの活用の幅も広くなり、オペレーションコストの低減を実現することも可能になります。
その一方で、マルチテナント型物流施設ができても、行政などが総合的な街づくりを進めなければなりません。
なぜなら、トラックの増加に伴う渋滞の発生など、負の側面も生じることになるからです。
今回は行政が街のグランドデザインを描きながら、マルチテナント型物流施設と上手に融和し、物流タウンとして成功している事例を紹介します。
【事例1】規制緩和でマルチテナント型物流施設を誘致
まずは、埼玉県春日部市の事例です。
この春日部市は2001年を境に人口は減少に転じています。高齢化の進展は、もともと高度経済成長期に都心部のベッドタウンとして開発が進み、そこに建てられた団地などに同じ時期に同じ世代の人が住むようになったことが影響していると言われています。
人口減少を経済の側面からバックアップするため、春日部市では交通の便の良い市内の庄和地区に、条例を変えて物流施設を誘致できるようにしました。
しかし、庄和地区は国道16号と同市、そして茨城県古河市を結ぶバイパスが交わるところにあるものの、市街化調整区域でもあり、大型の物流拠点を作ることができないでいました。
大型の物流拠点は、物流効率化法が適用されないと作ることができません。そこで、春日部市は事実上の規制緩和が行っています。
今では次々と大型の物流施設が誕生し、敷地・賃借用面積計10万坪の物流拠点となっています。
【事例2】自治体のバックアップで大型物流拠点を実現
千葉県流山市では、2005年のつくばエクスプレスの開業以来、市内に新たな駅が3駅も設置されました。都心部まで約20分で行けるアクセスの良さで、街としての魅力が大幅に向上しています。
街に魅力が出てきたのは交通インフラが整ったことだけが要因ではありません。たとえば、市役所には全国でも珍しい「マーケティング課」が設置され、民間出身の井崎義治市長を中心に、共働きの子育て世代が住みやすい街づくりを作り出すためにブランディングから考えてきたといった行政の取り組みも大きく影響しています。
その結果、年に5000人も人口が他市町村から流入していて、およそ2.5%の人口増加を実現しています。
鉄道だけでなく、流山市は国道16号が通るなど車でのアクセスも良いのが特徴で、物流拠点としても魅力的な街でした。そこで流山市と連携した大和ハウス工業が農地を物流施設にすることが出来るよう、農地への転用許可を農林水産省関東農政局から得て、日本で初めて農地として良好な条件を満たしている「第1種農地」を物流施設として開発に踏み切ることができました。
大型物流施設ができれば、雇用が確保されて人口の増加にもつながります。流山市は大和ハウス工業の「物流タウン構想」をさらに後押しし、景観条例の規制も緩和しています。現在は大和ハウス工業だけでなく、日本GLPの大型物流施設もあり、予定では1万人の雇用を確保できる大型物流タウンができあがる予定です。
【事例3】マルチテナント型物流施設が生み出すパート主婦雇用
千葉県市川市では2016年から三井不動産が物流タウン構想を進めています。同じく同社の大型ショッピングモールである「ららぼーとTOKYO-BAY」近くにありますが、近年、ショッピングモールから物流タウンへの雇用の移動が起きていると言われています。
その主役となっているのがパート主婦層です。
同社の物流タウン構想の中核となっているMELP船橋Iは最寄りの駅である京葉線南船橋駅から徒歩圏で、ショッピングモールでの買い物客への接客のパートよりも、買い物客対応のない物流タウンでのパートの方がストレスも感じずに快適に働くことができるのではと考えています。
MELP船橋Iは現在、1200人の雇用の受け皿となっていますが、三井不動産が2021年秋の完成を目指している新たな大型物流施設が完成すれば、約4000人の雇用を生み出すことになるといい、大きな関心を集めています。
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